その2 お尻の巻

 それは、残暑の厳しいある晴れた日の出来事だった。
 その日、私は旧友であり今は東京で華やかな(?)業界に身を置く「T」という男の依頼で、写真撮影に出かけた。
 毎度変りばえのしない撮影ではつまらないので、ちょっと足を伸ばしてみることにしたのだが、これが後に悲劇を招くことになろうとは、神ならぬ身の知る由もなかった…。

 快調にドライブして予定のポイントに到着した私は、車を止め撮影に入った。
 小1時間ほど撮影に没頭し、さて帰ろうかと私は車に戻った。
 既に汗だくだ。
 近くにコンビニがあったから缶コーヒーでも買って飲むべぇ、と急いで車を後退させた。
 と、ごん、という鈍い音。
 あー、またやったか、というのが正直な感想。
 車を降りて状態を確認。
 バンパーはべっこり凹み、ボディーとリアゲートにも線傷が。
 ぶつかったのは石の柱。
 表面の凹凸がたくさんのこすり傷をつけてくれていた。

 がーん。
 せっかく戻ってきたのに2ヶ月でこれかよ。
 不用意に後退した己を呪ったが、すでに後の祭り。
 走行機能には障害がないので、とにかくコンビニまで行ってのどを潤す。
 改めて見ると目立つ傷だなあ。

 その日の夕方、撮影を終えたその足で近所の板金屋さんに行ってみた。
 板金屋のお兄ちゃんにまたも同情を買われてしまう。同情なら売るほどあるのか、俺は。
 とにかく見積りを出してもらう。
 「外車はねえ、データベースにないんですよ」と云いながらお兄ちゃんはパソコンで修理の見積りを計算してくれた。
 結果は、ちょっと色をつけてもらって6万円(内税)。
 痛い痛い痛い!
 来週末には友人の結婚式があるんです、ええ広島で、ご祝儀持ってかなきゃいけないんです、何であれって3万円なんですかねえ?とにかくこのままじゃ破産です、などと切々と訴えた結果この金額なのでぐうの音も出ない。そもそもぶつけた自分が悪いのだから板金屋さんに訴える筋合いのものではない。
 結局この値段でお願いすることになった。
 持ち込んだ日がちょうど立て込んでいたため、数日待って日曜日にやってもらうことで話は落ち着いた。
 そしてその日曜日。
 折りしも運動会シーズン、板金屋さんの近所にも中学校があって、賑やかな声が聞こえておりましたとさ。
 その日仕事だった私は代車を借りるとそのまま出勤。代車はミニカ。ああ、そういえば前に乗ってた車(5年式ミニカトッポ)が車検の時、代車がこれだったなあ、てなことを思いながら出勤。
 一晩明けて翌月曜日、やはり仕事だった私は帰宅後にいとしの206嬢を迎えに。
 リアゲートのハッチとの合わせが気持ちずれているのがわかるものの、あれだけあった細かな線傷も消えて、ぱっと見ぶつけたということはわからない仕上がり。
 その場で代金6万円也をお支払いして無事お帰りとなった。
 帰り際、「今度は修理以外でまたいらしてください」という板金屋のお兄さんの一言が、私の心で幾度もこだましたのだった…。
 凹。

[NEXT]

目次