突然ですが、私は肌が弱いです。
蚊に刺されたりすると、すぐに傷になってしまいます。夏になるともう腕とか足とかぼこぼこになってしまうわけで。実際今も惨状を呈しています。
蚊の方もそういう皮膚が刺しやすいのか、とにかく大挙して押し寄せてきます。
これはもうテロルと云っても過言ではありません。
テロル(或いはテロ)とは「観念的な暴力」と表現されるように、ある目的のためには暴力を含むありとあらゆる手段を動員しその目的の実現を図るものです。彼女ら(蚊の雌)は血液を掠め取るだけでは飽き足らず、あまつさえ毒物まで投入して「かゆみ」という形で自分達の存在の痕跡を我々に与えますから、これは思想的ではないにせよある種のテロであると形容することは十分に妥当性が与えられると思います。
我々は蚊にとって栄養豊富な血液の供給源であるという理由だけで、この「かゆみテロ」の標的にされているわけです。
テロには断固として対抗しなければならないわけで、我々人間は蚊の襲撃に対してありとあらゆる手段を講じます。
目には目を、歯には歯を。
最古の法・ハムラビ法典の有名な一節ですが、「やられたら同じ方法でやり返せ」という単純明快な論理は、考えようによってはしかしまだ紳士的なルールと言えるかもしれません。蚊に対しては過剰ともいえる報復行為が用意されています。
彼女達の侵入を防ぐ障壁の設置(網戸や蚊帳)、直接の攻撃(叩き落したり潰したり)、さらに化学兵器による掃討(蚊取り線香など)、温床となる区域の掃討(水溜りなどに棲むぼうふらの駆除)などなど。そう、我々人間は彼女達小さなテロリストのやむにやまれぬ動機によるテロ行為を、さらに暴力的な手段によって圧殺しているのです。
蚊への対策は「侵入させない」「実行させない」「増やさない」の3原則でくくることが出来そうですが、こう考えるとイスラエルがパレスチナに対して行なっている行為とどこか似通っていますね。しかし、これを徹底してやっているつもりでも一夏の間まったく蚊に刺されないということはまずないでしょう。
我々がいくら蚊に対して過剰報復しても、彼女達「繁殖テロリスト」は毎年襲ってきて自らの痕跡を我々の肌に残し、そして人間に対する攻撃性の遺伝子を確実に次の世代へ引き継いで第2第3のテロリストを作っていくんですね。まるで我々の過剰報復が逆に蚊を招き寄せているような錯覚まで抱いてしまいます。
終わりのない報復の連鎖。
テロを撲滅することが出来たなら、きっと我々は蚊も撲滅させてしまっていることでしょう。
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