「お客様は神様です」と言ったのは今は亡き三波春夫氏だったか。
確かに、お客様の声というのはイコール潜在的なニーズであり、新たなビジネスチャンスを開くものだと言える。これはまさに「神の声」と言ってもよい。
しかし、だからといってそれを無制限に拡大してよいものだろうか?
私の職場では、そういう個別のニーズがあっても取扱いをそう簡単には変えられない事情がある。いくらこうして欲しいと言われても、どうしても実現できないことがあるのだ。
「お役所仕事」と言われるのは悔しいが、しかしどうしようもない。
そのお客様だけがお客様ではないのだから。一人のために全体を変えることは、少なくとも私の職場ではまだできない。
思えば、サービス業というのはそうやってニーズを際限なく拡大することで大きくなってきた。物を作る製造業と違って、サービスは形の無いものを売る。「こうして欲しい」というニーズ(言い方を変えれば「欲望」とも言える)は誰もが持っているもので、それを実現することを仕事にしたサービス業というのは、考えてみれば素晴らしい発明である。どこまでいっても需要がなくなるということは決してないのだから。
おかげさまで今とても便利な世の中になった。
自分でやりたくないことはお金を払えば大抵のことは代行してくれる。出来ないことは無いような気がしてしまう。
しかし、逆にいえば自分では何一つできないような気にもなってしまう。
みんなであちらこちらのニーズを少しずつ分担することで、私たち自身はずいぶんと楽に生活していると思うが、同時にずいぶんと甘やかされているような気もする。
あまり先回りしてサービスしてしまうのはいかがなものだろうか。
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