ついでなので画の話。
「風人物語」というアニメ作品がこの夏に放映されるようなのですが(*)、この画にすっかりやられてしまいました。
デザイン誰? え、荒川真嗣氏? なーるほど。
以前IGが制作したプレステ用ゲーム「やるドラ」シリーズで最も地味な絵柄で勝負した「雪割りの花」のキャラクターデザイン、作画監督をやった人です。
アニメの画というのは集団作業という性格上、ある程度の制約を受けます。その制約から逆にさまざまな表現手法が模索されたわけですが、少ない色数で立体感をつけるための影の置き方や、キャラクター弁別に寄与するパーツの強調などが様式化して一つのジャンルにまでなったのがいわゆる「アニメ画」です。
ところが、「雪割」ではキャラクターのシルエットはデッサンに基づいたリアルなものでありながら、細部を極力省略し、影も無造作にすとんとつけただけのごく平面的な絵柄を打ち出してきたのです。アニメはそれまで画面の情報量の拡大とその制御を目指してきたのですが(押井作品やその直前に話題となっていた「エヴァ」などはその好例)、その画はその流れに敢えて逆らっていたのです。
ではそれが単調かというと、実際に動いているのを見ると実にいいのです。ぺったんこなのにちゃんとキャラが息づいているし、画面にも品があって好感を持ちました。恋人を失った女性にほのかな好意を寄せていた男性が、ショックで記憶を失った彼女から恋人だと思い込まれる、という「嘘」をテーマにしたリアルではないけれどもちょっと重めのドラマに画がうまく作用していました。
で、「風人」に話を戻しますと、細部を省略している点は「雪割」と同じですが、今度のキャラクターはシルエットもリアルなデッサンから離れて頭身は下がり、足元に行くにつれて細く頼りなげになっています。言い方を変えれば、「雪割」が一定の質量を持った身体であったのに対し、「風人」では身体が重量を失ってふうわりと半歩宙に浮いているのです。
で、ここで物語紹介を読むと「風使いの村」という言葉がキイワードになっている。ははーん、こいつぁ意図的にそんなデザインにしたなあ、というのがここでわかるわけです。
アニメキャラクターのデザインというのは本来こういうことですね。
作品が要求するものから逆算してキャラクターが生み出されることがあるように、テーマが絵柄を決定することもあるのです。そもそもアニメの一番の面白さは「人が描いた画が動く」という原初的な驚きにこそあるのですから、画であることに徹したこの絵柄はもうそれだけで拍手に値すると思うのです。果たしてこの画がどのような動きを見せてくれるのか、是非とも見てみたいものです。
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